朝いつもの道でローズにも似た香りを一瞬感じた。あたりにはバラの花は見当たらない。翌日東山植物園でその花の香りの正体を知った。今、背の高いタイサンボクが大きな白い花を咲かせている。スズランのような花の香りである。花は上を向いているので風がその香りをあちこちへと運びその香りの入いった空気の位置に鼻があった場合に感じることができる。その間に香料の成分も変化してくる。あの、朝の香りはかなり遠いところの庭から運ばれてきたものであろう。風が運ぶ、目には見えない香りの入った空気の存在。こういった風の役割はかなり前から認識されていたのである。平安時代身分の高い人々の衣装に香を焚きしめる習慣があった。風はその香の香りを辺りの人へ運び届ける。それが追い風用意である。香の香料は焚かれ、衣につくと一層重みを増し香りが立たなくなる。風といっても空気の動き、柔らかな動きでゆらりと運ばれるのが望ましい。上から下へと風が通りやすい貴族の屋敷こそ、香の美しさを楽しめたのであろう。タイサンボクの素晴らしい香りを嗅ぎに東山植物園にお出かけください。